薬物乱用に関する学校教育の重要性と
学校薬剤師の役割

              長崎国際大学薬学部 薬理学研究室 山本経之

薬物乱用とは、医薬品を医療目的から逸脱した用量や目的のもとに使用したり、あるいは医療効果のない薬物を不正使用することを指している。1回の使用でも乱用である。
我が国は、戦後いちはやく薬物乱用の撲滅に乗り出した。そのことが
混乱と腐敗の世相を安定化させ、敗戦国でありながら驚異の早さで復興を成しとげた要因の一つと考えられている。
1990年の国連総会で、21世紀には薬物乱用のない健全な社会の実現に向け、「国連麻薬乱用撲滅の十年」が決議された。しかし、21世紀を迎えても国内外を問わず薬物乱用に歯止めが掛かっていない。この薬物乱用・依存による社会的損失は年間約2068億円に上るとされている。
薬物乱用の撲滅は基本的には供給の遮断と需要の削減に集約される。薬物の密輸・密売などの供給源の遮断は警察を中心とした徹底的な取り締まりの強化に尽きる。しかし法律的罰則や取り締まりの強化だけでは、撲滅できないことはこれまでの歴史が教えている。薬物乱用の撲滅は需要の根絶がキーワードであり、薬物乱用の有害性についての正しい知識を教える学校教育が最も大切である。

クスリのスペシャリストである薬剤師・学校薬剤師は、昨今の社会的状況の中で健全な未来ある社会を築く為に、研鑽を積み“話の出来る”講師として薬物乱用防止教室を開催し、さらにクスリの専門的な知識を修得した教師の養成にも携わり、薬物乱用防止に積極的な役割を担う責務がある。

薬物乱用の防止に関する教育の基本的なあり方として、私は次の5点を挙げたい。

道徳的な面から薬物乱用の悪を語ることにも意義はあるが、むしろ生物学的事実に根ざした科学を理解させることが最も重要である。

急性毒性や身体的障害だけを強調するのではなく、その強い依存性や薬物使用を止めても脳の永続的な機能障害を起こす点、さらにその影響が次世代(子孫)にまでおよぶ点に真の恐ろしさがある事を教える事がポイントです。

法律上の処罰を引き合いにだし、「ダメ!」を連呼しても意味がない。漠然とした恐怖心を煽るような教育ではなく、ヒトとは何か、生命の尊厳とは何かの問いに対峙した中で、薬物乱用の恐ろしさを説くことが重要である。

薬物乱用に対し正しい専門的な知識を修得し、確固とした信念を持った教師を学校の中で養成する事が必要である。

学校における薬物乱用防止教育の完成度は、その授業・講演会の実施回数ではなく、生徒の理解度・満足度で計る。従って、授業・講演会に対する生徒の評価は、この種の活動の原点である。薬物乱用防止の活動では、常に効果的であったか否かの検証・再評価が必須である。


薬物乱用の防止に関する教育の基本的なあり方として、5点を念頭に置いて講義内容を構成することが肝要です。薬剤師が「薬物乱用防止教室の講師」になることが目的ではなく、薬物乱用の芽を摘む担い手になることが目的です。薬剤師は「薬物乱用防止教室の講師」として最も相応しい立場にいますが、薬剤師だからその人物が「薬物乱用防止教室の講師」として適任であるかは別問題です。
薬物乱用防止教室での講義に際しての注意点・留意点を10項目を別記したので、上記の5つのポイントと共に参考にして頂ければ幸いです。

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